夏にケルンから帰国する際、現代音楽のための音楽祭に招いてくれた友人が私に、「良いスタートを!」と声をかけてくれた。
「現代音楽にちゃんと取り組みたい」という思いから、研修まで取ってしまった訳だけど、
実のところ秋以降には思った以上の出会いと展開があった。
日本の花火研究者に清水武夫さん(1912-2011)という方がいらっしゃって、その方が書かれた本に『花火の話』(1972)というものがある。ネットでは、花火師や花火愛好家の間で「バイブル」とされている、と書かれている。
その中に、清水さんが考案された「花火譜」に関する記述がある。
例えば大阪の夏空に何万発もの花火が打ち上がるPLの花火大会での花火を例に、
それぞれの花火の形状や明るさ、色の変化、タイミングや輪の大きさなど実に細かいところまでを
楽譜のシステムを応用して「記譜」されている。しかし楽譜のシステムを借りてはいるが、実際のところ
記号的な意味は音楽における楽譜とは少し異なる。とてもよく出来ている。
一つの音符にかなり多くの情報が詰め込まれているので、読み解くには同氏が作成された
何種類かの対応表とにらめっこする必要がある。
写真右上に少し見えているのが、清水氏の花火譜。
「この花火譜を音楽の楽譜のように見立てて、音楽として演奏できない?」と提案したのは、
ドイツ人の若手女性アーティスト、レア・レッツェル (Lea Letzel) だった。
彼女はケルン在住で、2019年9月から12月までの3ヶ月、ゲーテインスティトゥート・ヴィラ鴨川
(アーティスツインレジデンス)の招聘アーティストの一人として京都に滞在している。
演劇学とメディアアートを学び、花火師の資格も持つ。舞台演出的なことをするけど、
音楽家と共に活動することが多くて、彼女のことについてはまた改めてちゃんと
記事にしないと説明が難しい。
ケルンで活動しているという地理的な繋がりでレアとは共通の知人も多くて、
元はといえばヴィラ鴨川で開催される彼女らのトークイベントのポスターに、
私がこの夏演奏会で呼ばれていたケルンの聖ペーター教会の写真が大々的に用いられていたので
声をかけずにはいられなくて、思わず彼女に直接連絡を取ってしまったのがきっかけだった。
会ってみたらすっかり意気投合で、今では付き合いの長い親友のような距離感を感じる。
人との出会いってすごいなあと思う。
話は逸れたけど、花火譜の企画はそもそもは、レアが別のアーティストと合同で実施することにした
ヴィラ鴨川のopen studioで発表できるものにするためだった。
話をもらってすぐに、この企画は他の楽器と組んでやりたい!とバイオリニストの中村公俊くんに
「花火譜というものがあって、何を弾くかはそれ以上わからないんだけど」
声をかけると快諾!
一度打ち合わせをしてその次の回に合わせ、その日のうちに収録という恐ろしいスケジュール感でしたが、
さすがの中村くん、花火譜からなんと素晴らしい図形楽譜(?)を作成してくれました。(写真左)
これを音にするプロセスがまた楽しくて!
初めはかなり厳格に、特定の花火の色を特定のオルガンの色に置き換えようとか
プランしてたけど、実際に録音を聴いてみたら面白みに欠け、
最終的には花火の色の変化は音構成やモチーフ的なものに置き換えることにし、
色彩=音色というイメージから敢えて脱してみると、結構面白くなってきた。
やってるうちに、オルガンとバイオリンに自由度が増してきて、
そのうちバイオリンの出方に反応してオルガンがリアクションをする、その反対のことが
おこるというアンサンブル感も次第に生まれてきた。
そもそも、こうした演奏家の主体性、即興性、統合といったところにこそ
レアの追求しているものがあり、岩倉のオルガンの特殊性はこうした演奏に
まさにぴったりとはまる。
この演奏が、12月14日に開催されたヴィラ鴨川でのopen studioでアーティストトークと共に
放映されたわけですが、ビデオもいずれご紹介できる予定です。
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