あらゆる仕事でも同様だけど、オルガニストにも特有の仕事道具があります。
楽器・・・はもちろん必需品だけど持ち歩くのはなかなか難しいので、それ以外となるとオルガンシューズでしょうか。
ただ、オルガンシューズは絶対ないと演奏できない訳ではありません。
無ければ靴を履かずに弾いたり、日本では嫌がられますが形によれば普段の靴で演奏することも可能ではあるのです。(特に婦人靴は弾きにくい靴も多くありますが)
大学で担当しているパイプオルガン入門クラスでは、限られた期間のみ楽器を演奏される学生さんが多いので、殆どの人はシューズ無しで(つまり靴下でそのまま)演奏しています。
ところがその入門クラスでも昨年頃から、熱心な学生さんの熱意が伝染していって不思議に全体のレベルが高くなってきており、メンデルスゾーンのソナタやボエルマンのトッカータを演奏する人まで出てきました。
ペダルをかなりよく使う作品になってくると、やはりシューズがある方が断然弾きやすいです。
オルガンのレッスンに限らず日本では物事を学び始めるとき、「何から始めるか」「何を用意したら良いか」「何から勉強したら良いか」ということをよく聞かれます。
私自身もきっと、無意識のうちにそのように思考しているかもしれません。
でもドイツにいると、「とにかく何でも良いので始めて」ということが多くありました。
「まず当人が何かやり始めないと教えられない」ということで、これは確かにごもっとも!
オルガンが学びたければ、とにかく滅茶苦茶であっても道具も何もなくても良いのでまず弾いてみせる。
そしてその力量や表現やらを見てから、教師は生徒に何が必要かを教えてくれるのです。
「何を弾いたらいいですか」というのは愚問なのです。
さて、話は逸れましたがオルガンシューズについて。
まず何故シューズがあると弾きやすくなるかというと、足鍵盤は約2オクターブ半あり、
オルガニストはその音域を縦横無尽に駆け回るからです。
というのはオーバーかもしれませんが、実際のところかなりアクロバットなのです。
そして黒鍵と白鍵には数センチの段差が生じるため、その段差分の高さが踵(ヒール)にあると非常に弾きやすくなるのです。
(男性のシューズは女性のものに比べるとヒールが低いように思いますが。)
靴下で弾くと滑りやすく、靴幅の広い靴は鍵盤がうまく踏めず、靴裏が硬いと感覚がわからず、
ヒールが細くて高いとまた演奏が難しく、楽器も傷つきやすく、またヒールがぶつかるノイズが絶えず生じるなんてことになります。
ですからやはり本格的にオルガンを弾くならオルガンシューズは必要・・・となるのです。
私は日本的にまずオルガンシューズを用意して入門しましたが、ドイツにはオルガンシューズを作るメーカーなんて多分なくて、大抵はダンスシューズや底が柔らかめの靴をオルガン演奏用にして、弾くときに履き替えるという具合でした。
私は随分長い間、アメリカのメーカー「オルガンマスター(organmaster)」というところのものをオンラインで購入して何度も買い替えて使っていました。
何といってもリーズナブルで、革が柔らかいので馴染みやすく、シューレースがないので足を突っ込むだけで履けるため楽ちんで便利だったのです。
が、デメリットはやわいということ。革が剥がれてきやすいので、何度も自分でアロンアロファで修繕したり、
最後には革に穴が開きました・・・。
なので結構最近になってからようやく、上質なオルガンシューズを手に入れました。
日本製で銀座ヨシノヤさんのものです。
おそらく日本のかなり多くのオルガニストが使用されていると思いますが、値段に驚いてなかなか購入できずにきていたのです。
初めは革が堅くて、そして紐を結ぶのが面倒でつい従来のシューズを履いてしまっていたのですが、
少しずつ革が馴染んでくると、しみじみと物の良さが感じられます。
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