《パイプオルガン完成まで》
2010年に竣工したグレイス・チャペルには
もともとパイプオルガン設置計画があったのですが、
チャペル完成のタイミングには資金面等の都合間に合わず、オルガン設置予定場所には2017年の工事までは左写真のような仮設の壁がついておりました。今となっては不思議な空間に見えますが、当時は意外とこういうものだと思われていました。
オルガン設置計画の話が具体化したのは2013年。
夏季休暇を利用して、ドイツのいくつかのオルガンメーカーの工房見学、楽器見学をしました。
メーカー選考とオルガンの仕様検討が進み、2014年秋、ドイツのヴァイムス社と契約を結びました。
ヴァイムス社にとってはアジア第1号のオルガンとなります。
◆ドイツでの製作
製作メーカーであるヴァイムス社は、設計・製作から設置・整音・保守管理まで、基本的に全て
自社で担っており、一部の電子部品を除いては金属パイプも同社の工房内で鉛と錫を溶かして作っています。
(この様子は、Weimbsについてのページでご紹介します)
当然オルガン内部の木製部品なども同じ工房で製作。
複雑な製作の工程を踏むオルガンは、完成までにとても時間がかかり、
メーカーによっても異なりますが、大体がオーダーしてから完成まで2~3年かかります。
上の写真はいずれもドイツ西部、ヘレンタールにあるヴァイムス社の工房での、本校のオルガン製作過程の
写真です。
工房の中で、オルガンは少しずつ組み立てられていき、一旦ほぼ完成したように見えます。
(実際は整音は現地でされるので、この段階ではちゃんとまともな音にはなっていません。)
ここで全てバラバラにし、コンテナに詰めて船で日本へ出荷されるのです。
◆日本での設置作業準備
一方日本では、組立整音のために綿密なスケジュールが立てられました。
まずは仮の壁を壊し、足場を設置する必要がありました。そしてそこから数カ月、チャペルの2階部分が使用できなくなるので、どの時期が適切かもメーカーとやり取りしつつ、決めていきました。
左写真はオルガン到着前の準備段階。
これでオルガンの到着を待ち受けます。
設置協力をしてくださった日本の望月オルガン(株)さんが、オルガン運送、入管、そして日本での移動から設置までの細かな手配を全て担ってくださいました。
◆ドイツから京都へ!
実は日本への輸送にトラブルがあり、
悪天候のために数日出荷できず、しかもそれ以降も
輸送が想定していたより長引くということがありました。結果的に、オルガン到着予定日にはオルガンがまだなく、ドイツから来日した4人の職人が数日京都でオルガン到着を待ちわびるということに。
望月オルガンさんと日通さんの尽力のおかげで、
かなりのスピードで入管を済ませてようやくコンテナが学校に到着!という感動の一コマが右写真です。
雨の中の積み下ろしでした。
授業期間でもあったので、授業の合間の移動中に、生徒も教職員も「なんだなんだ?」と揃って見学しておりました。
◆いよいよ学校での組立作業開始!
組立から整音までの過程は、動画の方がわかりやすいかと思うのでご覧ください。
2017年4月27日から開始した組立作業は4人のドイツ人職人、2人の日本人スタッフ
(搬入にはさらに複数名の日通スタッフを含める)で行い、職人さんたちのゴールデンウィーク返上の働き
の結果、連休明けにはスケジュールの遅れはすっかり取り戻されておりました。
組立作業は特に、目に見えて日に日に組みあがっていくのがわかるので、この間何度か
生徒や教員を対象にした見学会を実施し、組立の現場にお邪魔して直接ドイツ人の
職人さんに質問もできるという機会がもてました。
5月下旬に整音の職人が来日。組立担当の3人の職人がドイツに戻られました。
整音が始まると一転して、整音専門の職人が音に集中できるよう見学もなるべく最小限になりました。
温度湿度の変化も整音にダイレクトに影響を及ぼすので、気温が日に日に上昇する6~7月の日本は
これにとても苦労しました。
エアコンを早朝に入れ、数時間待って室温が一定になってからの作業。
それでもオルガン上部とオルガン下部にどうしても0.3~0.5度ほどの温度差が生まれ、
毎日頭を悩ませていました。
6月上旬に本格化した整音作業は8月上旬に終了し、8月10日に引渡式が行われました。
◆整音作業
組立作業と、電気及び電子的な配線ができたら次は整音作業。
一音に対して一本のパイプが必要なパイプオルガン。
35ストップのこのオルガンには約2200本のパイプが必要なのです。その1本1本を、全て現地で手作業により
削って整え、チャペルの音響、他のパイプの響きに最も良いバランスで合うように作られるのです。
その作業を整音作業とよびます。
整音作業の全てを現地で行うというのは、ヴァイムス社のこだわりです。
多くのメーカーは既に工房で何割か整音を済ませてくることが多いようです。
でも、日本の建物の中はヨーロッパの教会と音の響き方が全く違います。
今回は、この「すべて現地整音」で本当に良かったと思っています。
整音のまずはじめは、主鍵盤( Hauptwerk ) の 最も重要なストップ、Prinzipal 8' の音色を決めます。
整音師のヨヘンがc1 の音を鳴らし、私に向って「どう?」と尋ねます。
正直なところ、ただ一音を聴いて、それが自分の欲しい音なのかどうか・・・!
これは本当に難しい質問でした。何度も何度も一つの音を鳴らし、空間の中で聴くのは、
まるで禅問答のよう。しかも、音を聴いているのはパイプの間近。
実際に人が音を聴くのは遠く離れたチャペルの空間の中です。
整音作業は、ほとんど常にパイプの至近距離で作業するのに、実際は
「チャペルの中で響く音」を目標に音を作っているのです。
整音とはなんという作業なんだろう!と、始終感嘆していました。
実際のところ、一列(ストップ)ずつ仕上がっていく度に、
私がオルガンを鳴らし、ヨヘンがチャペルの下で聴いて・・・という作業も繰り返していました。
◆その他のオルガン内部写真をご紹介。